第2話
夫に不倫を問い詰めると…
今夜、夫を問い詰めてやる!
徹底的に不倫を問い詰めてやる!
今までの怒りを、全部ぶつけてやる!
時間は、夜の10時を回った。
息子は、既に眠りについていた。
私は、風呂に入らずに夫を待っていた。
夜11時過ぎ、玄関の扉が開く音がした。
ついに、夫が帰ってきたのだ。
さて、戦闘開始だ!
夫の足音が聞こえる。
廊下を歩いてリビングに向かってきている。
心臓の鼓動が聞こえる。
今から喧嘩するのだ。
当然、心は落ち着かない。
だが、不倫を見逃すなんてできない。
不倫なんて絶対許せない。
そもそも、私がセックスレスで悩んでいた。
それなのに、自分はどこかの女と関係を持っていたなんて。
リビングのドアを開けた夫は、私を見てビックリした。
普段なら、寝間着に着替えている時間だ。
だが、私は昼間の服装のままリビングのイスに座っている。
パソコンを起動させ、画面にはグーグル検索画面を表示させてある。
私は、夫をまっすぐ見て言った。
まお
「おかえりなさい。
ご飯は用意してありますが、その前に話があります。
パソコンの前に座ってください」
疑問に思いながら、パソコンの前に座る夫。
だが椅子に座った瞬間、私の意図に気づいたのか夫は急に焦りだした。
そんな夫を横目に、私はグーグル検索の画面に『ら』の文字を打った。
検索画面には、ラブホテルの文字が並んだ。
私
「あなた、これはどういうこと?
いったい何を調べていたの?」
夫は、下を向いたまま黙っている。
私
「私とのセックスレスの原因が分かりました。
どこかの女と不倫していたからだったのね!」
夫は黙って下を向いたまま。
目も合わさず、何もしゃべろうとしない。
私
「何が、『仕事で疲れている』よ。
不倫で疲れていたからじゃない!」
私は、うつむいたままの夫を非難した。
今まで騙されていた分、感情的になってしまっていた。
私
「不倫の相手は誰よ!?
正直に…、正直に言いなさいよ!」
私の声は、震えていた。
怒りと悲しさでいっぱいだった。
だが次の瞬間、
私の話を聞いていた夫は急に立ち上がった。
そして、ゆっくり私に近づいてきた…。
その表情は、今まで見せたことが無い形相だった。
次の瞬間、右の頬に痛みが走った!
一瞬何が起こったか分からなかった。
だが、私はこの目ではっきり見た。
夫が右手を振り上げて、次の瞬間、私の頬を叩いたのだ。
私は、その場に倒れこんでしまった。
夫はそんな私を横目に、風呂に入っていった。
リビングに座りこんだままの私。
感じるのは、痛み、悲しみ、絶望…。
私は、涙が止まらなかった。
次の日から、夫は私に暴力を振るうようになった。
殴る蹴るは当たりまえ。
コップやお皿なども投げつけてくる。
もはや意思疎通など不可能。
当然、会話など完全に無くなった。
ただ、私が一方的に命令されるのみだ。
旦那の行動は、暴力に留まらない。
家庭をかえりみない行動を取り始めた。。
平日は、毎日深夜に帰宅するようになった。
土日は、香水を付けて何も言わずに出かける。
給料は毎月5万円しか私に渡さず、自分はお金を使い放題。
夫は、家庭のお金のことなど考えてくれない。
夫に注意しても、言い返される。
男の力で制されて、ひどい目に合うだけだ。
それに、私は養ってもらっている立場だ。
生活の事を考えると、何も言えなくなった。
もちろん、離婚を考えた。
この人から離れたいと思った。
しかし、離婚して生きていける自信がない。
子どもを一人で育てていくなんて、できる自信がない。
専業主婦の私は、我慢するしかなかった。
毎日繰り返される暴力・暴言。
生きた心地がしない。
耐えるしかない。
私は、この人専用の家政婦。
ヒトや女性であることは、もう忘れよう。
この世の全てを、諦めていた…。
そんな時、私の従姉Yさんが夫と別居した、と聞いた。
従姉Yさんは、幼い頃からずっと仲良くしてくれていた。
社会人になっても、仕事と家庭を両立させている従姉Yさんは私の憧れだった。
そのため、従姉が別居したと聞いて、私はとても驚いた。
しかも、既に離婚について話し合っているらしい。
従姉夫婦は、私の理想の夫婦だった。
別居なんてありえない。
まして、離婚なんてもっとありえない。
こんな私の代わりに幸せな家庭であるべきだ。
だが、話を聞いているうちに、ある考えが浮かんできたのだ。
従姉Yさんは、夫とは別の道を選ぼうとしている。
夫との生活を捨てて、違う道を歩もうとしている。
もちろん、2人の間に何があったかは分からない。
だが、『女性が夫から離れ、一人で生きる道を選ぼうとしている』ことに、共感できなくはない。
だが、私は従姉とは違う。
従姉の様に仕事はしてない。
私は結婚してからずっと専業主婦なのだ。
生活していくためには、収入が必要だ。
だが、私は結婚後はパートの仕事はしていたものの、正社員の仕事から離れて5年以上になる。
夫と離れたら生活が大変だ。
ただ、従姉Yさんのことが頭から離れない。
女性が夫に頼らないで生きるなんて考えてもみなかった!?
私も、仕事を始めたら離婚しても生活していけるかもしれない。
だが、私に子どもの世話と仕事の両立なんてできるだろうか。
そもそも、今まで家事しかやってこなかった私が、今さら職に就けるだろうか。
だが、従姉Yさんは、一人で仕事と子育てをしようとしている。
しかも、正社員の仕事をこなしながらだ。
想像するだけでも大変だ。とても困難だ。
だが、それでも、夫から離婚して新しい人生を歩もうとしている。
そんな生き方があるなんて。
そんな選択肢があるなんて。
私も、できるかな!?
私も、シングルマザーできるかな!?
私の中で、何かが変わった瞬間だった。
離婚を思いつくと、すぐさまスマホを取り出した。
気付いたら、実家に電話してした。
実家には、今の我が家の現状を言ってなかった。
せっかく嫁いだのに、親に心配かけてはいけないと思っていた。
ずっと幸せなフリをしていた。
だが、もうこの気持ちは抑えられない。
今まで溜まっていたことを、両親に全部話した。
何時間も何時間も電話した。
その間、両親は私の話をじっくり聞いてくれた。
そして、父は言った。
父
「今までよく頑張ったな。
もう我慢しなくても良いぞ。
10年ぶりに面倒見てあげるから、実家に帰ってこい」
あぁ。
父と母は、今でも私を愛してくれてるんだ!
私は一人じゃなかったんだ!
父の言葉に、
涙が止まらなかった。
翌日から、私は別居の準備が始めた。
夫が仕事で家にいない昼間に、少しずつ荷物を実家に送った。
夜は、夫の暴力と罵声を受けていた。
しかし心の中で、『あと少しの我慢』と自分に言い聞かせ耐えていた。
そして、ついにその日は来た。
夫の帰宅した時、私はひとりリビングで夫を出迎えた。
子どもと荷物は、既に私の実家に送り出していた。
既に部屋の中はガランとしている。
夫
「なぜ物がこんなに少ない?
息子はどこだ?
いったい何があった!?」
夫は、私に問いかけてきた。
いや、問い詰めると言ったほうが正しい。
いつもなら、私は震えて下を向いていた。
だが、この日は違った。
そして、勇気を振り絞って言った。
もちろん、夫を睨みながら。
私
『もう我慢できません!
これから別居します』
次の瞬間、夫がカバンを投げつけてきた。
続いて、家の物を次々と投げつけてくる。
私に向かって投げつけてくる。
何度も何度も痛みを感じた!
私は耐えながら、
『完全に終わった』と思った。
しばらくすると、夫の暴力が収まった。
そして突然謝ってきた。
夫にとって、私の別居宣言は驚きでもあった。
決して逆らわないと思った私が逆らったのだ。
部屋の荷物や息子がいないことに気づいて、やっと現実を認識したのだという。
夫は、私の目の前で土下座した。
夫が泣きながら、必死に謝ってきた。
だが、そんなことで私の決意は変わらない。
私は、夫に目もくれないで家を飛び出した。
背後から、「行かないでくれ!」という声が聞こえた。