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婚姻費用の正しい知識とは!?
- 夫A氏は、50代の中堅企業の会社員。
- 妻Bさんは、40代の派遣社員。(相談者)
- 子どもは、7歳の小学生が一人。
A氏とBさんの家庭は、一見どこにでもいる家庭だ。
ただしここ1年ほど、夫婦仲は最悪な状態だ。
きっかけは家事の細かい決め事だった。
最初はただの喧嘩だったが、いつの間にか犬猿の仲になってしまった。
いつしか、食事も別々で取るようになった。
家にいても目を合わせないようなった。
もし目が合えばすぐに口論が始まるのだ。
これ以上、夫A氏とは生活を共にしていけない。
妻Bさんは、離婚を前提とした別居を検討し始めた。
だが、別居を検討し始めた妻Bさんは、困難に直面した。
別居後の生活費の問題だ。
妻Bさんの派遣社員の給料だけで生活をするには心もとないのだ。
もちろん、子どもは妻Bさんが連れていくつもりだ。
夫に子どもの世話は任せられない。
そのため、7歳の子どもは妻Bさんが育てていくことになるだろう。
妻Bさんにとって、子どもの世話は楽しく大きな生きがいだ。
だが、子どもを引き取るとその分生活費も大きくなる。
悩んだ妻Bさんは弁護士に相談した。
事情を弁護士に相談したところ、婚姻費用という制度を知った。
夫婦は互いに助け合う義務があり、例え別居していても同一水準の生活を送らなければならない。基本的に、経済力が高い方(夫)が他方(妻)を経済的に支えなければならないという。
同居中であれば、夫婦が共に生活するので問題ない。
しかし、別居することになると生活は別々のものとなる。
その場合は、収入の高い側(夫A氏)から妻Bさんに生活費として婚姻費用を支払わなければならないのだ。
最大の懸念点だった生活費は、婚姻費用のおかげでなんとかなりそうだ。
いま妻Bさんは、別居に向けて着々と準備を進めている。
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夫婦は協力して生活する義務がある
夫婦は、夫婦生活に必要な生活費を分担することになっています。この費用を婚姻費用と言います。ここで言う生活費とは、家賃や住宅ローン、日常的な食費、外食費、被服費、光熱費、通信費、家具代や電化製品代、(適切な範囲内の)娯楽費、医療費、教育費などです。
ほとんどの家庭では、夫の仕事による給料が主な収入源となっています。女性の社会進出に伴って共働き家庭も増えてきていますが、女性には出産に伴うキャリアの中断などがあるため、男性である夫の方が年収は高いのが現実です。ほとんどの家庭では、夫が仕事で稼いできたお金が、経済面で家庭生活を維持しているのが現状なのです。
一方、妻は仕事をしている人もいますが、家事や育児で主要な役割を担っています。一見すると、お金としての費用を分担していないように見せます。しかし、妻は金銭だけではなく家事労働をすることで分担しているのです。
夫婦は、このようにして相互に協力し合って生活していかなければならないのです。
婚姻費用とは
夫婦関係が円満な場合はこの図式は成り立ちます。しかし、夫婦関係が破綻して別居状態になると状況は異なってきます。特に、収入のほとんどを夫に頼ってきた家庭では、夫からの生活費が無ければ妻は生活することができません。
ただし、夫婦は婚姻関係にある限り協力する義務があり、協力して生活することが義務付けられています。そのため、妻は別居中の夫に対して生活費として婚姻費用を請求できるのです。
夫側の意見として、共に生活をしていないので婚姻費用は支払いたくないと思うでしょう。しかし、婚姻費用の支払いは、法律で決められている妻の権利なのです。したがって、請求された場合は支払わなければならないのです。
婚姻費用の金額は算定表から決めることが多い
婚姻費用の金額は、お互いの合意さえあれば自由に決めることができます。
ただし、現実的には算定表を用いて決めることが多いです。
算定表とは、婚姻費用を簡易的に決めることができるマトリクス表です。この算定表を用いると、婚姻費用は、夫婦のお互いの年収と、子どもの数・年齢から決まります。一般的に、夫婦の年収差が大きい程、そして、子どもの数が多くて年齢も高いほど婚姻費用は高くなります。
実際には、多くの家庭では夫である男性の方が年収が高い場合が多いです。そのため、婚姻費用は夫が妻に支払うパターンがほとんどです。
算定表の見方
では、具体的に算定表を使って婚姻費用をみてみましょう。
権利者(妻)は夫と別居開始し、婚姻費用を請求することになったとします。
子どもは、現在は妻が監護・養育している。
- 子どもは一人で年齢は10歳
- 夫の前年度の年収は510万円
- 妻の前年度の年収は210万円
※表
@婚姻費用か養育費、子供の数・年齢から、
『婚姻費用・子1人表(子0〜14歳)』
を選択する。
A縦軸で義務者(夫)の年収を定める。夫の年収510万円に近いのは500万円なので、500万円を基準とします。
B横軸で権利者(妻)の年収を定める。妻の年収210万円に近いのは200万円なので、200万円を基準とします。
C縦横の2つの値から伸ばした線が交わるのは、『6〜8万円』です。
D『6〜8万円』の2万円の範囲内で調整を行って金額を確定させます。『6〜8万円』の範囲の中でも、真ん中に近い位置にあるので7万円を基準とすることが多いです。ただし、当事者同士の具体的な状況を考慮して決められます。
算定表は、裁判所のホームページに掲載されています。
※裁判所HP
婚姻費用を受け取るためには請求が必要だ!
婚姻費用を受け取る権利がある期間は、別居時から離婚成立時までです。ただし、婚姻費用を受け取るためには、権利者(妻)が婚姻費用の請求をしなければなりません。
婚姻費用は、別居してから自動的に支払われるものではありません。また、夫から婚姻費用の支払いを申し出てくることはほとんどありません。
したがって、婚姻費用の請求は別居後速やかに行うべきです。婚姻費用を受け取る権利があるスタート期間は別居時からですが、支払い義務が始まるのは請求時からなのです。
もし別居開始したにも関わらず婚姻費用の請求をしないでいると、その間は夫側に婚姻費用の支払い義務が無く、妻は金銭的に損をしているまま時間が経過することになります。
また、婚姻費用の請求時に夫が速やかに支払いを始めない場合があります。また、婚姻費用についての話し合いを避ける場合や、婚姻費用の支払いには合意していても金額が決まってないと場合もあります。
その場合でも、後から婚姻費用の請求時にまで遡ってお金を請求できます。
支払われるのは、婚姻費用の金額が決まった時や、離婚成立して財産分与の際に婚姻費用の分をまとめて清算する時になります。妻側としては婚姻費用をもれなく受け取るためにも、別居後速やかに婚姻費用を請求しておくべきです。
婚姻費用が支払われない時にすべきこと
婚姻費用の支払いは、法律で決められている義務です。多くの家庭では、収入が多い弾性側(夫)に支払い義務があります。しかし、婚姻費用を請求されても、素直に支払いに応じない人もいます。
婚姻費用が支払われない場合、妻と子どもは安定的な生活を送ることが難しくなるでしょう。これは、妻側としては非常に深刻な状況です。
夫が婚姻費用を支払わない場合、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を起こすことができます。これは、調停委員を介して婚姻費用を決める話し合いです。もし調停で決まらない場合は審判が行われ、そこでも相手が合意を拒否すると(異議申し立て)、裁判で決めることになります。
調停や裁判で婚姻費用が確定すると、強制力を持ちます。支払いが滞ると、夫の勤務先の給与を差し押さえすることができるのです。差し押さえることができる金額は、夫の手取り額の2分の1までです。ただし、会社役員の場合は、報酬全額分が限度額となります。
夫が無職で収入が無い場合
事情があって働くことができない場合、基本的に収入はゼロとして計算します。これは、夫側も妻側にもあてはまります。幼い子どもの育児や、健康上の問題で働くことができない場合などです。
ただし、相手が働けるにも関わらずに無職でいる場合、年収はゼロとはしません。その場合は、厚生労働省が出している勤労統計の賃金センサスから、潜在的な年収を推定します。賃金センサスには、年齢・学歴・それまでの就職歴・健康状態から判断した適正年収が記載されており、それを基にして婚姻費用を求めることになります。
ただ、例えそのように年収を推計設定しても、相手が無職であれば収入は無いので支払いは期待できません。その場合は、未払い分を財産分与と清算するなどの方法を検討することになります。
婚姻費用地獄(コンピ地獄)とは!?
妻と弁護士の作戦で、世の男性の中には、婚姻費用の支払いを延々と強いられることもあります。
具体的には、妻が夫と別居したにも関わらず、離婚になかなか応じようとしない状態です。
妻が離婚に応じない理由は、いくつかありますが、婚姻状態の方が多くのお金(婚姻費用)をもらえるからというのがあります。
子どもがいる場合、養育費は婚姻費用のだいたい6〜8割ほどです。
ならば、あえて婚姻状態を長引かせて夫から婚姻費用を延々ともらい続けるのです。
この時、夫は婚姻費用を支払うにも関わらず子どもにも会わせてもらえません。
離婚したくても、相手が応じてくれないので高い婚姻費用を支払い続けるしかないのです。
この夫の状態を、婚姻費用地獄、もしくはコンピ地獄と言います。
婚姻費用のまとめ
婚姻費用制度は、夫と別居した女性を金銭的にサポートします。
一方、男性にとっては金銭的にかなりの負担を強いられます。
婚姻費用は、「どうせ離婚までの決め事」でと思っていると痛い目を見ます。
離婚の話し合いは、そんなすぐに結論着くものではないからです。
別居に直面した際は、
女性も男性も、
婚姻費用はできるだけ有利になるようにしましょう。