第7話
始めての離婚調停が迫っている!弁護士相談の会話内容を完全公開!
妻が出ていって24日目(月曜日)
妻が弁護士に依頼した以上、まずは婚姻費用を請求してくるのは確実です。
――婚姻費用。
夫婦が共同生活を送るのに必要な費用。
衣食住費のほか、教育費、娯楽教養費、交際費なども含みます。
婚姻費用は、双方の年収や子供の数によって決まります。
そして、夫婦は別居しても同じ生活水準を維持することが求められるのです。
婚姻費用は、男性(家庭の収入源)にとって、とても恐ろしい制度です。
なぜなら、妻が夫の同意なく家を出ていって別居に至っても、支払い続けなくてはならないのです。
最悪の場合、妻や子供にずっと会えないのに婚姻費用を支払い続けなければならない場合もあります。
これは婚姻費用地獄(コンピ地獄)と言います。
もし支払いが滞った場合は、給与差し押さえされてしまいます。
私は、妻の気持ちをなだめるためにも、
私から婚姻費用を支払うことを伝えました。
婚姻費用は、月額9万円を提示。
- 夫(ヤマト)の給与年収は600万
- 妻の給与年収は350万
- 1歳の娘が1人
この条件を元に、算定表から算出しました。
その後の妻側弁護士とのメールのやり取りで、『暫定的に毎月9万円』で合意しました。
(あくまで暫定的であり、正式に決まった訳ではありません。)
妻が出ていって28日目(金曜日)
この日、会社から帰宅すると大きな封筒が届いていました。
茶色のA4サイズの封筒です。
ついに来たか…。
封筒を手に取った瞬間、何か分かりました。
家庭裁判所からの離婚調停開始の通知です。
妻側弁護士と協議をしたときに宣告されていたので、覚悟はしていました。
しかし、実際に書類が届くと手が震えました。
しかし、戸惑っているだけでは前に進みません。
もう覚悟はできています。
大きく深呼吸をして、封筒を開きました。
裁判所からの書類は、調停の申し立てについてでした。
妻は、2つの調停を申し立てていました。
別居や離婚に直面している状態の夫婦の紛争の解決を目指すもの。
妻は、離婚を主張するでしょう。
私は、復縁を主張するつもりです。
婚姻費用は暫定的に9万円としましたが、
今後の話し合いで正式な金額を決めることになります。
あぁ、離婚調停が始まってしまう…。
もう避けられないのだな…。
送付された書類をひと通り見ましたが、ふと疑問が浮かびました。
事務的な手続きが書いてあるだけで、妻の主張がどこにも書かれていないのです。
以前、妻側弁護士が私に送付してきた通知書には、妻の主張が書いてありました。
ただ、その内容は想像以上の誇張・ねつ造で、主張と言うより嘘だらけの内容でした。
この時、ふと思いました。
もしかしたら、妻は裁判所にだけ陳述書を提出しているかもしれない。
もしそうであれば、私も妻の主張を見る権利があるはずだ。
そう思って、裁判所に電話してみました。
調停の申し立てをされたヤマトと申します。
事件番号は●●●●です。
担当書記官に繋いで下さい。
担当の〇〇です。
いかがなさいましたか?
妻が申し立てた調停の期日通知書が届いたのですが、妻の主張などはどこにも書かれていません。
妻から陳述書は提出されてないでしょうか?
もしあれば、調停をスムーズに進めるためにも見てみたいです。
確認します。
(この間、約5分)
奥様は陳述書を提出されています。
確かに、ヤマトさんは見る権利はありますね。
では、奥様の弁護士からヤマトさんに送付してもらいます。
妻は裁判所に陳述書を提出していたのです!
気が付いてよかった!
そして、万が一を思って問い合わせてよかった!
数日後、妻が裁判所に提出していた妻の陳述書が届きました。
1、
共同生活を始めたころから、相手方(ヤマト)は、申立人(妻)が大事にしていた物を勝手に処分することが度々あった。
その都度、妻はヤマト氏に私の物を勝手に捨てないでほしいと懇願したにもかかわらず、全く意に介することなく何度もごみ箱に捨て、それを妻が取り出すという日々が続いた。
2、
ヤマト氏は、妻の髪型や服装に至るまで事細かに指定し、ヤマト氏の意にそぐわなければ不機嫌になる上、妻の容姿を中傷するなど、妻の自由を束縛し、妻の人格を否定する毎日が繰り返された。
3、
それでも、妻はなんとか我慢し婚姻生活を続けていたところ、平成〇〇年〇月に第一子の妊娠が判明した。
4、
出産後、ヤマト氏は平日は深夜に帰宅したり、土日は昼過ぎまで寝ているなど、家事・育児への協力体制は皆無であった。
5、
そして遂には、平成〇〇年〇月に、ヤマト氏が午後11時を過ぎても帰宅しないことから、妻が帰宅時間を確認したところ、『なぜそんな言い方をするのか!』などと怒りを爆発させ、妻に怒鳴った。
妻は、ヤマト氏のその様な暴挙に耐えられず、実家の母親にメールして警察が救助してくれたことで、やっと解放された。
上記一連の暴挙に直面し、妻はヤマト氏とこれ以上婚姻生活を続けていくことは困難と考え、離婚を決意し、同日以降、長女と共にヤマト氏と別居することとなった。
妻はヤマト氏との婚姻関係を解消するため、離婚調停を申し立てた次第である。
な、なんだこれは!?
嘘や誇張ばかりではないか!!
まるで私が極悪人に見えてしまう!?
こんな主張がまかり通るものなのか!?
裁判官も調停委員も、この陳述書を読んだうえで調停が始まるのだろう。
私が妻の陳述書の存在に気付かなかったら、相当悪い印象を持たれた状態で調停がスタートしてしまうところだった。
調停前に見ておいてよかった!
裁判所に問い合わせてよかった!
だが、この内容には驚きしか感じない。
調停は話し合いの場なので、相手は容赦なく攻撃してくることは覚悟していた!
とは言え、こんな嘘や誇張が許されるものなのか!?
いや、ここは私が考えを改めるべきかもしれない。
離婚調停とは、嘘やねつ造をするのが一般的なのかもしれない!?
弁護士は正義の象徴だと思っていた。
妻側弁護士でも、正義だけは守るものと思っていた。
嘘など決してつかない職種の人たち、と。
しかし、現実は全く違った!
正義か。
そんなもんはこの世の中にありはしない。
(『ブラックジャック』by手塚治虫)
こうなったら、私も陳述書を書こう。
ただし、私は嘘はつかないようにしよう。
そして、本格的に弁護士に相談しよう。
ただし、調停は自分一人で行ってみよう。
離婚経験のある友人が、弁護士にアドバイスを受けながらも一人で調停に通ったという。
弁護士に依頼したら便利だが、まずは一人で立ち向かいたい。
もし途中で手に負えなくなったり、裁判になったら、同席を伴う依頼をしよう。
弁護士には1年間のアドバイスコースを依頼することにしよう。
アドバイスを依頼する弁護士は誰にしようか。
もちろんトレンディエンジェル斎藤似のK弁護士だ!
(※第5話で登場)
以前相談した時、断トツで好印象だった。
K弁護士なら、信頼できるだろう。
初回の調停は約1ヶ月後。
時間は十分にある。
K弁護士に相談したときに、私の陳述書をチェックしてもらおう。
後悔しないよう、しっかり対策を考えよう。
K弁護士に相談する前に、
今の私の心境と、質問したい内容をA4用紙1枚にまとめておきました。
そして、アドバイスコースを申し込みました。
- 期間1年で計25時間まで相談可
- 調停や裁判での同行は無し
- 費用は10万円
陳述書は、妻の主張への反論が良いか?
夫婦の仲が良かったとのアピールが良いか?
反論すると仲が悪かったという印象が残ってしまいます。
そのため、反論はせずに議論に持ち込ませない方が良いでしょう。
とても仲が良かったというアピールに徹しましょう。
調停では、証拠を出して話すべきか?
裁判まで出さない様にすべきか?
調停で証拠を出しまくるのはよくありません。
どうしても主張を裏付けたい時は、調停委員にだけに見せるというのは有りです。
暴力など絶対に無いが、妻はされたと言っている。
これは、具体的にどのような反論が可能か?
暴力を訴えるなら、されたと主張する方(妻)に立証義務があります。
向こうの出方を待つしかありません。
ここで奥さまが証拠を出せないのならば、否定されて終わりです。
妻の陳述書に色々書いてありますが、これで裁判になった場合、離婚は成立しそうか?
この内容で離婚判決はまず無理です。
ただの夫婦喧嘩と見なされるでしょう。
具体的な日付も分からなければ、証拠もまず無さそうです。
離婚するためには3年ほどの別居を経て、それを既成事実とするしかないです。
どうしても離婚を避けられない場合は、経済的に私が優位な条件にしたいです。
進め方で意識すべきことは?
経済的に好条件にするに、こちらからは条件を提示しないことが重要です。
こちらから提示すると、それを基準にして、相手はそこから金額をできるだけ引き上げようとしてきます。
もし条件についての話し合いになった場合、最初に向こう(妻側)に条件を提示させて、そこからできるだけ金額を引き下げようと話を進めるほうが有利です。
妻側がどうしても金銭的条件を言ってこないのならば、『条件を聞くだけ聞いてみますが?』などと、相手に条件を提示するきっかけを作ってあげるというテクニックが使えます。
K弁護士は、私の質問に冷静に回答を続けます。
調停の実務と法的な面の両方を勘案しながら、現実的な対策を述べてくれます。
質疑応答をするたびに、私の頭が整理されていくのが分かりました。
K弁護士への相談を終えてと、
今回の紛争がどのような流れになるかを整理してみました。
以下は、別居以降のフローチャートを元に説明。
※裁判は妻が提訴すると仮定
離婚についての争いが始まると、まずは離婚協議を行うことになります。
離婚協議とは、双方が話し合うことです。
当事者が直接話し合う場合もあれば、代理人(弁護士等)に依頼する場合もあります。
ヤマトの場合は喫茶店で妻側弁護士と話し合ったことは、この協議にあたります。
しかし、私と妻側弁護士の意見は平行線でした。
その場合は、次の離婚調停のステージに進みます。
協議で結論が出ない場合は、離婚調停を行うこととなります。
離婚調停は、家庭裁判所で調停委員と呼ばれる人を介して話し合う場です。
間に人が入ることで、議論を上手く誘導してもらえることが期待できます。
離婚調停では、妻は一貫して離婚を主張してくるはずです。
ここで私が離婚に応じれば、数回の調停を経て離婚が成立します。
しかし、私は離婚に応じません。復縁希望です。
双方の意見が平行線のままでは、調停は不成立となります(不調)。
調停が不成立(不調)となれば、妻は家庭裁判所へ提訴すると思われます。
裁判では、判決を出しますが、その前に裁判官が和解を迫ってくることもあります。
判決をする裁判官が和解を迫ってくるので、和解と言えども双方応じざるを得ない状況にもなります。
(もし和解を断っても、その通りの判決をなる可能性が高い)
家庭裁判所での裁判の期間は1年〜1年半程です。
どちらかが判決に不満ならば、高等裁判所に控訴することができます。
高等裁判所では2〜3回の裁判で判決に至ります(期間は半年以内)。
しかし、離婚の場合、家庭裁判所の判決が覆ることは少ないです。
もし高等裁判所での判決が不満なら、最高裁判所へ上告することができます。
しかし、離婚事件は最高裁判所はほぼ受け付けません。
最高裁判所は、事実を争う場所ではないのです。
憲法の不備や社会的影響が大きい事件のみは受け付けますが、個々の事件を扱うことはまずあり得ません(上告棄却)。
最高裁判所に棄却されれば、その時点で高等裁判所での判決が確定します。
裁判で離婚不可の結論が出たとしても、妻を強制的に同居させることは不可能です。
離婚不可の場合、妻は3年程度の別居期間を作ってから再度裁判を起こすでしょう。
3年程の別居の実績があれば、現実として離婚は認められることになります。
そのため、裁判をするなら早い段階で法廷に持ち込ませた方がヤマトに有利です。
長期戦になればなるほどヤマトは不利なのです。
さらにこの間、ヤマトは婚姻費用を支払い続けなければなりません。
時間がかかるほど、経済的負担が大きくのしかかります。
一般的には、『婚姻費用>養育費』なので、夫側は早く高額な婚姻費用から解放されたいです。
そのめに、早めに離婚に応じようというインセンティブが働きます。
妻側弁護士はそれを狙って、まずは婚姻費用をできるだけ高めに設定することに力を注いでくるはずです。
婚姻費用の点からも、長期戦になればなるほどヤマトは不利です。
私が復縁希望で妻が離婚希望ならば、議論が平行線のままで時間が無駄に過ぎるでしょう。
話し合いが長引くことは妻も望んでないでしょうし、時間が経てば経つほど別居期間が長くなるので私に不利になります。
そこで、何かしらの形で決着しなければなりません。
決着をつけるとしたら、離婚条件が焦点となります。
ここで私は、『簡単には離婚に合意しない』というスタンスを出します。
妻側弁護士がそれを察して、『離婚に合意してくれるならヤマト氏に有利な条件でどうですか?』という提案があれば検討の余地有りです。
私はその優位な立場で話を進めていけばいいのです。
場合によっては、『条件があるなら聞くだけは聞いてみます』というスタンスで相手から条件を聞き出すようにもしてみます。
ここで重要なのは、私から経済的な条件の話をしようとしないことです。
私から経済的な話に持っていこうとすると、必ず足元を見られます。
また、言い争ったことを全面謝罪すると、調停委員などに対する印象が悪くなります。
したがって、言い過ぎたことや思いやりが足りなかったなどの言葉を使うようにします。
あくまで喧嘩をしただけというスタンスを貫きます。
- 『離婚はしない』と強く主張する。
- 『簡単に離婚に応じない』と主張する。
- ただの夫婦喧嘩と主張する。
初回の離婚調停を控えて…。
この頃、仕事後に同僚と飲みに行ったりする気になれませんでした。
毎日仕事後は直帰し、家で頭の整理をして過ごしました。
正直、ここまで対策をすべきかどうか非常に悩みました。
私にも非があるので、準備などはせずに調停に臨むべきではないか。
私が今一番望んでいることは、妻とヨリを戻すことだ。
有利な条件に持ち込むことが目的ではない。
しかし、希望は捨てるべきだと自分自身に言い聞かせました。
妻は弁護士に依頼し調停を申し立てた。
妻は完全に戦闘モードなのです。
こうなると、私は頭を切り替えるべきです。
私は既に、自分を守る闘いの真っただ中にいるのです。
自分を守るのに手加減が必要でしょうか?
対応を間違えば、子供に会えないどころか財産をほとんど取られてしまうのです。
相手のなすがままになって、身ぐるみ剥がされたら私が生活していけません。
自分を精一杯守って、
初めて未来に向けて進めるのではないか。
たとえその結果が、どうであろうとも…。
ここまで来たらもう誰も守ってくれません。
親も兄弟も友人も『応援』はしてくれます。
しかし、それは『守る』とはまた別物です。
会社や上司や同僚も同様です。
この闘いは、神様が私に与えた試練なのだろう。
全財産の数千万円をできるだけ守りつつ、
妻に私の気持ちを伝えなければなりません。
そこに立ちはだかる妻の雇った弁護士たち・・・。
ベテラン弁護士3人に、ヤマトは1人で立ち向かいます。
30歳台にしてこの試練。
これを乗り越えたら、より強くなれるはず。
自分を守るため。
未来を切り開くため。
そして、
できるならば妻に戻って来てもらうため…。
もう心に迷いはありません。
東京家庭裁判所に、
いざ出発!!